くそみそたのてきと~がたりー本とか映画とか

本とか映画とかについて語るブログ

最近のタランティーノ映画的シェイクスピア(?)~「彩の国シェイクスピアシリーズ ヘンリー八世」~

 彩の国さいたま芸術劇場で「ヘンリー八世」を見てきた。金子大地(鎌倉殿での演技が最高だった)を見てみたいな、という下心で行ったのだが、ウルジー役の吉田鋼太郎、キャサリン役の宮本裕子がすごくてのぞけった。全員最高なのだが、特筆してこの二人が良かった。本当に。吉田鋼太郎は表情作りがすごい。ウルジーは裏表があって、権力に媚びへつらう男なので、人によって態度や表情を変えるのだが、それの使い分けがさすがだった。二幕で憎きウルジーが一気にコメディチックな雰囲気になるのだが、そこもおもしろかった。憎めなくなってきている。最後死ぬ前の長台詞もすごかった。権力に執着していた男が権力の頼りなさとか別に良くなく無い?むしろ最悪じゃない?ってことに気づくところは割とハっとさせられた。この男自体はそこまで悪い奴じゃなくて権力や富名声が魅力的に思える人の心の弱さが招いたことなんじゃないかって気がしてくる。吉田鋼太郎は役が合っている上に自分のモノにしているんだろうな。どんだけ切羽詰まった演技でも余裕が感じられる、こっちが安心して見られるのすごくない?本当にプロ。演出も担当しているのか。すごい。そして二人目、我らが王妃、キャサリン様は賢さと気高さと気品がぎゅっと詰まっていて傅きたくなる。宮本裕子さんが本当に名優で、感情の乗せ方も上手くて、あんだけ難しい言葉がすっと入ってきた。一番聞き取りやすかった。しかも台詞が多い上に結構動くキャラクターなので、大変だろうなと思ったけど、きびきび動く上に王の娘兼王妃という説得力がある王族らしさがあって素晴らしかった。貴族じゃなくて王族。終始かっこいいのだが、特に上手く丸め込もうとするウルジーと対決する場面がマジでかっこよかった。一番好きかもしれない。女官親衛隊のひとりになりたい、、、!!本当に名優である。ちょっとオフィーリアみたいに狂っちゃう場面の演技もその後すぐ王妃としての威厳を見せる演技も最高。優しいだけじゃなく、しっかり王族で尊い立場の人なんだ、、と圧倒された。

 他の役者さんも最高だというのは言うに及ばず。主役の阿部ちゃんは安定してかっこよかった。存在感もタッパも主役として申し分ない。ただ、ちょっと聞き取りにくかった。特になんでキャサリンと別れるかみたいなことを話すとこが分からなかった。またバッキンガム公爵の宮田さんの演技がものすごく良かった。鬼気迫る演技が、公爵の無念さがびんびんに感じられてすごかった。あと、ハンサム。いらん情報だけど私のタイプだった。あとアンブリンの花純ちゃん超綺麗。初め仮面つけてたときからやばかった。他のエキストラの女性陣(スタイル良い)とスタイルの良さとか可憐さが違うから、すぐこれがアンブリンだなって分かった。顔とか小さくて超美人で、腰も細くて、、、そりゃヘンリーも好きになりますわ。ちょっと台詞一回とちったけどすぐ何もなかったかのように持ち直せててプロだ、、ってなった。金子大地の大司教はものすごく可愛かったし、堂々としていた。ものすごくいいとこ取りのキャラクターで良い役貰えて良かったね、、と勝手に思った笑。本当に良かったね。この二人に言えることだが、ベテランに囲まれてて若手がよくあんなに堂々と演技できるなってものすごく感心した。何目線なんだろう、、笑 まとめとしては一人一人、特に役名がなかったりしても(ほとんどあるけど)舞台でその役として生きていて、演技派の演技がたくさんみれて本当に良かった。すばらしい舞台だった。難しい台詞も理解したんだろうな、、すげーよ、、、

 ここからは内容について触れていこう。これ割と単純にエリザベス一世の誕生を称える話なのかな?って感じがした。原作全く知らずにいるし、シェイクスピアの単作ではない説もあるっぽいし、時代もエリザベス生前だろうな説とかいろいろあるっぽいけど、少なくとも、エリザベス一世の誕生を栄光あるものとして描いている。これ実際はどうだったのかな?男の子のお世継ぎが欲しいからって離婚したり、処刑したりを繰り返してたっぽいヘンリー八世だから女が生まれても嬉しくなかったんじゃないかな?と思う。そんな祝われてなかったんじゃないかな、、。けどこの劇では王女の誕生をみんなが祝い、司教からは栄光ある君主になることを予言される。エリザベス一世このあと確かお母さんが処刑されるわ、ロンドン塔に行かされるわ、王室から離されるわ、みたいな散々な目に遭うから女として生まれて君主になることを予言させ、祝われるというフィナーレはフィクションだとしてもものすごくエリザベスにとって最高なんじゃないかな?お母さんは多分この後処刑されなくて、女王になることが切望されて、ロンドン塔に行かされることもない、、、、シェイクスピアが権力者に媚びを売っただけではないんじゃないかな?女王への敬意や親愛があったとしたらいいな。私はそう思いたい。いやあ、どうだろ。ちなみに歴史を良い方向に修正してハッピーエンドにしている感じが最近のタランティーノっぽいなと勝手に思った。

 あとマジでキャラクターの描き方が好き。ヘンリー八世の描き方が人間味があって、愚かな部分も強いけどこの人にもこの人なりに孤独があったり、苦悩があったりするんだなと身近に感じられて、良い。お世継ぎ問題に悩んでいたりしたけど、最後そのことからも解放されて晴れ晴れとしていたのが良かった。悪役であるウルジーも最後人生の大切なことに気づけたし、おもったより爽やかな劇だった。ヘンリー八世ってことは悲劇っぽいな~とあほみたいに思うとったので。ただ、よくわかんなかったのは大司教が娼婦や乞食に混じっているところを王様が見る場面、あれはなんだったんだ?特に王の信頼も落とさなかったし、あれ意味あるの?ちゃんと後でしらべよ。

 最後に結構現代的な衣装が良かった。現代的な王の衣装、阿部ちゃんさすが似合ってたな。キャサリンの青のドレス、ウルジーの赤と対比させられているみたいで良かった。あとウルジーの格好って彼の権力と同様に意外と薄っぺらいんだと驚いた。

 

夢小説的なようでそうじゃない~「マスク」~

 どうでもいいけど、私は夢小説を書くのが趣味だ。夢小説っていってもだいたい自分とは違う全然違う理想の女キャラクター(社交的、可愛い、おしゃれ)を作って好きなキャラに振られる話だから一般的な夢小説ではない。普通の夢小説は自分ではない誰か、理想のキャラクターを生み出し、好きなキャラクターと幸せな恋愛をさせる。だけど私は「こんなにかっこいいにーちゃんが私と付き合ってくれへんよな」と現実が邪魔してしまってかっこいいにーちゃんと付き合ってても振られたり、浮気されたりする話を作ってしまう。夢小説を妄想や理想を話にするのが道理だが、悲しいことに、完全に現実である自分を分離できないのだ。そんな悲しき夢女子である自分にとって「マスク」は本当に理想の話である。平凡なにーちゃん(夢女子)がなりたい自分(夢主)になれて、マスク(小説)を使って綺麗なねーちゃん(推し)と恋に落ちる。ものすごく夢小説的である!!と思ったのだが、夢小説とは違ってこの映画では現実と幻想の境目が曖昧すぎるのだ。爆弾飲み込んでイプキスが無事だったりするあたりで、匙を投げた。この映画は現実と幻想が表裏一体、というよりかは共存しているのだ。当たり前だが現実である夢女子と夢主は似てようが被せてようが全くの別物だ。推しと恋に落ちるのは自分が作り上げた別人で、現実とは絶対交わらない。けど「マスク」は現実が幻想となって、幻想が現実になる。マスク(これ自体に意思あるんじゃねえの?)の介入によって幻想が生み出されている。作り出すわけじゃなくて、生み出されているのだ。主人公が受け身的なのだ。マスクが能動的すぎるのか?イプキスはマスクによってジェシカラビットみのある神々しいキャメロン・ディアスと恋に落ちたのだ。上手いこと幻想が冴えない現実を蹴飛ばして、現実を良い方向に変える。現実と幻想が理想的に調和しているのだ。勿論幻想の枠内である映画だからできることである。

 最後に忘れちゃいけないのが、これイプキスは人助けをしようとしたのがきっかけでマスクを手に入れたのだ。都合のいい幻想を手に入れるには良い行いが必要ということか。ただ、実際私が人助けのために海に入ろうが入らまいがマスクも素敵なラブシーンも手に入らない。ただただ幻想を無理やり生み出して満足するしかないのだ。小さいとき「マスク」を観たときはただ笑っているだけだったが擦れて成長してしまって、変な感想を生み出してしまった。つくづく子どものままでいたいもんだ、、、、

1.女と女の爽快逃走劇~「テルマ&ルイーズ」~

名作を見てみようと思って見てみたら想像の100倍くらい最高だし、爽快だった。カーリー・クーリ脚本で、「ハンニバル」(DVDのケースに書いてあった)や「最後の決闘裁判」とかその他諸々で有名なリドリースコットが監督を務め、そのほかにおしりがきゅっと上がってる(今も上がってるかも)えらいキュートでセクシーな若いブラピが出てくる。主演の二人の女優は両方とも知らなかったがものすごく演技が上手い。特にルイーズの困惑する演技とかの表情作りがものすごく良かった。あと出てくる男の中でいちばんまともなハル刑事もあのえらく優しい、人柄の良さがにじみ出る演技良かった。最近良作だと思えても名作とまでは思える映画を見なかったから、これを見終わった後すごく気持ちよくなれた。

※ここからネタバレ注意

で、本題だが感想としては、まずあのラストが素晴らしい!!ということだ。テルマもルイーズも時々衝突がありながらも、二人とも己の道程を最終的に後悔してない。そして空を飛んだ。ハッピーエンドとは言い難いがーいや、どうなのだろう?ー二人が選択した道を突っ走ったのだ。普通は後味が悪くなるだろうに、全然さっぱりする。素晴らしい。だが二人が飛び出す前のハルのセリフがかなり切なさを醸し出しているが、、、あの二人は被害者だと分かっている人がいて良かった、のだろうか、、、もう少し早ければ、、、

またこの映画は性暴力をテーマにしているが、きちんと性暴力と気持ちいい、良い同意のあるセックスを別物として描いている。(ちなみに後者の方の場面にJDというちんけなコソ泥(ブラピ)が出てくるのだが彼のやった唯一のいいことはテルマに気持ちのいいセックスと筋肉がついているセクシーな体を提供したことである。)それに性暴力は被害者のせいにされやすいうえに、加害者に対して法律は甘いということも描いている。もし観客のなかでテルマがきっかけでこうなったという人がいれば主旨を全く理解してないかずっと寝てたかのどっちかだ。100%あの男が悪い。もちろん二人のその後の犯罪はちょっとやりすぎかな、とは思う。特にトランクの警察官のシーンは可哀そうで笑った。まあけどセクハラしてくるどうしようもない男のトラックを撃つのとか、実際にしたらアウトだがめちゃくちゃスカッとする。こういう現実ではできないことができるのはフィクションのいいところである。

キャラクターの作り方も良かった。まずテルマ。多分元々社交的だったのが旦那のせいで閉塞的に暮らしていて控えめになったが、徐々に逞しくなる。会ったばかりのJDを部屋に置いたりメキシコへ行くことを喋ったのは結構うわあ、、と思ったが、割と切り替えが早く、強盗するあたり機転がいいのでそこまでいらっとしなかった。もちろんいくら態度が丁寧でも強盗は絶対にダメだが。次にルイーズ。煙草を吹かす姿やドライブする姿がかっこいい。JDに金盗まれた時悲しみ泣き出すあたりで彼女がただ逞しいだけでなく弱い部分があるということを示していて良い。可愛いとすら思った。私だったらテルマを責めまくって憤死してしまうかもしれない。テルマと衝突しあいながらも良きバディとして絆を深めていく過程が良い。あと二人が衝突してもあまり引きずらない感じが良かった。それにファッションもめっちゃ好み。あと男陣。まずジミーが優しかった。机のものをなぎ倒すのは良くないけど笑。浮気されてると思ったのにプロポーズに来る当たり、なんか可愛かった。あとブラピ、じゃなくJD。どーしよーもねーやつだけど小物感があったし、こ憎たらしいにとどまっていた。可愛い顔も作用している。可愛い顔はほんとに得である。レズビアンである自分もJDだったら中に入れたいな、と思う。誰があの雨に濡れているカーボーイハットのブラピを拒めるだろうか。まあ部屋に一人っきりにはしないけど。特筆すべきはハル刑事だ。最後まで優しい人だった。一回部屋に行くみたいな場面はあれは何だったのか?もう一回ちゃんと見てみよう。

 

最後に訂正しておく。

これは名作ではない。傑作だ。

ものすごく痛い読書体験だった。~ナイルパーチの女子会~

柚木麻子先生はツイッターでフォローしていて、彼女のユーモアたっぷりのツイートを楽しんでいた。そして図書館で柚木先生のこの本を見つけ、わくわくしながら読んでみるとものすごく痛い読書体験をしてしまった。なんか一回ツイッターで話題になった「オリオン街」という漫画の一話を読んだときに似ている。ものすごく痛いのだ。面白かったが、とにかく読んでると心を刺されまくった。ものすごく痛い読書体験だった。内容を軽く言うと、世田谷育ちのバリキャリ女子がとあるブログにはまり、そのブログ主と実生活でたまたま出会い、仲良くなるというもの。この設定とかはまあよくある?ガールミーツガール、ダブルヒロインものという感じがしてくる。推しが近くに住んでいるのもフィクションとしては変じゃない。とりあえず、最初の方は女友達がいなくて悩むバリキャリ女子で、共感を結構しながら読んでいたが、どんどん雲行きが怪しくなってきて、ひえっとなった。主人公の女友達への憧れが半端ないせいで、友情が執着に変わっていく過程が恐ろしいのだ。マジで。これ根っからの陽!って感じの人は分からないと思うが、自分のようにジメジメした人間にはこのジメジメした、気持ち悪い執着心が結構分かり、共感性羞恥的なものがすごかった。主人公を見るのはものすごく痛かったが、自省も含めて読みきった。意外とあんなにエグい話だったのに、最後はかなりきれいに終わり、読後感も悪くない。ものすごく「痛い」小説だったが「友情とは?」みたいなことをマジで考えさせてくれる良作だった。